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東京地方裁判所 平成3年(ワ)6944号 判決

東京都渋谷区恵比寿二丁目三六番一三号

原告

株式会社パワーステーション

右代表者代表取締役

小林茂

右訴訟代理人弁護士

藤本博光

右訴訟復代理人弁護士

中條嘉則

右輔佐人弁理士

奥山尚男

東京都新宿区新宿六丁目二八番一号

引受参加人

日清フーディアム株式会社

右代表者代表取締役

新井雄一郎

右訴訟代理人弁護士

高野裕士

右輔佐人弁理士

角田嘉宏

高石郷

神奈川県川崎市宮前区土橋三丁目三番地二

脱退被告

日清食品レストランシステム株式会社

右代表者代表取締役

新井雄一郎

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  引受参加人は、ホットドッグ、ハンバーガー、サンドイッチ等(以下「本件食料品」という。)及びその包装紙、包装箱に、別紙第一目録記載の標章を付して本件食料品、包装紙、包装箱を譲渡し、引き渡し、展示し又は頒布してはならない。

2  引受参加人は、東京都新宿区新宿六丁目二八番一号所在の日清食品株式会社(以下「日清食品」という。)東京本社ビル地階において経営するロッキン・レストラン(以下「本件レストラン」という。)又はその看板に表示した名称のうち別紙第一目録記載の名称を表示してならない。

3  引受参加人は、別紙第一目録記載の標章を付した本件食料品の包装紙、包装箱、入口表示、看板、宣伝広告物を廃棄せよ。

4  引受参加人は、原告に対し、金二四七万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は引受参加人の負担とする。

6  仮執行宣言

二  引受参加人

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

(商標権に基づく請求)

1 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、登録商標を「本件商標」という。)を有する。

登録番号 第二〇一四六六三号

出願日 昭和六〇年一一月二六日

出願公告日 昭和六二年七月九日

登録日 昭和六三年一月二六日

指定商品 第三二類(平成三年政令第二九九号による改正前のもの。)食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)

登録商標 本判決添付の商標公報写し該当欄記載のとおり

2 脱退被告は、昭和六三年三月頃から、東京都新宿区新宿六丁目二八番一号所在の日清食品東京本社ビル地階で経営する本件レストランにおいて、「POWER STATION」なる文字を含み、かつ同文字を顕著に表わした別紙第二目録記載の標章を付した容器又は包装紙に入れて、本件食料品を販売していたが、引受参加人は、平成四年九月頃以降本件レストランの営業を脱退被告から承継し、同じ標章を付した容器又は包装紙に入れて、本件食料品を販売している。

3 脱退被告及び引受参加人(以下「被告ら」という。)の販売する本件食料品は、本件商標権の指定商品中の加工食料品に該当し、かつ、次のような販売態様から商標法二条三項にいう「商品」に当たるものである。

即ち、本件食料品は、本件レストランの地下三階と、道路を通行する人も場合によっては販売していることが確認できる本件レストラン入口から入ったすぐの地下一階で、「POWER STATION」なる文字を含み、かつ同文字を顕著に表わした持ち帰り可能な形のプラスチック容器又は包装紙に入れて、レストラン内に他の飲食物の持込みは厳重に禁止したうえで、レストラン内で食するのが主目的ではあるが、テイクアウトすることを特に禁止せずに販売されており、その販売方法はレジカウンターを挟んで、客が入場料とは別の金銭をその場で支払うことによって購入するものであり、一般に頒布されている被告らの本件レストランの宣伝用パンフレットで、本件食料品が宣伝広告されている。

4 別紙第二目録記載の標章中の「POWER STATION」なる表示(別紙第一目録記載の標章)は、本件商標に類似している。

5 したがって、被告らの右行為は、本件商標権を侵害するものである。

脱退被告は、故意又は過失により右侵害行為をしているところ、昭和六三年三月から平成三年五月の本件訴提起の時までの間に、別紙第一目録記載の標章を付した容器又は包装紙に入れた本件食料品を、少なくとも一日当たり三〇〇名が本件食料品を五〇〇円分購入したとして、一億四七〇〇万円相当分販売しているので、本件商標の使用料は販売価格の一%が相当であるから、原告は、一四七万円の使用料相当の損害を被った。

6 原告は、石油販売等を営む株式会社であるところ、その経営する給油所に、昭和六一年頃から「パワーステーション」の営業表示(以下「原告営業表示」という。)を付しているが、原告営業表示は、関東地区において、原告の営業上の施設及び活動を示す表示として、一般に広く認識されている。

即ち、原告は、昭和六一年五月一日に設立された株式会社であるが、右設立と同時に、原告代表者の父親が設立した株式会社小林商店から、渋谷区恵比寿所在の広尾サービスステーション、八王子市所在の共石八王子サービスステーション及び埼玉県伊奈町所在の伊奈サービスステーションの三か所の給油所の営業を譲り受けるとともに、各給油所の名称を全て「パワーステーション」の原告営業表示を付したパワーステーション広尾、パワーステーション八王子、パワーステーション伊奈とした。

その後、原告は、昭和六二年にはパワーステーション東大宮を、平成元年にはパワーステーション越谷を開設し現在に至っている。

パワーステーション広尾へ来店する車は、一か月約一万八〇〇〇台ないし二万台であり、パワーステーション八王子へ来店する車は、一か月約一万台ないし一万二〇〇〇台であった。パワーステーション広尾は平成三年二月一七日に閉店し、パワーステーション八王子も平成三年三月一一日に閉店したが、昭和六一年五月から閉店までの約五年間、それぞれパワーステーションの店舗として、その各を知らしめてきたものである。

原告は、その設立以来、右各給油所において、単に石油類の販売だけではなく、レジャーライフショップを併設して、顧客に各種商品のショッピングを楽しんでもらい、仮装をしての呼込みや給油を行ったりの努力をして、需要者に「特異性のあるパワーステーションあり」との認識を深めさせた他、右各給油所の宣伝としてチラシ約一二〇万枚、ダイレクトメール約二〇万枚、総計約二七〇〇万部にのぼるガイドブック、人員募集紙等に掲載する等の努力をした結果、来店人数は、昭和六一年から平成三年五月までに約四三五万人に達し、各店舗の販売量は、全国平均の五ないし六倍の販売量に達して、業界のトップクラスを占め、原告営業表示は、関東地区において、原告の営業上の施設及び活動を示す表示として、一般に広く認識されるようになった。

7 脱退被告は、昭和六三年三月頃から、東京都新宿区新宿六丁目二八番一号所在の日清食品東京本社ビル地階において、当初「POWER STATION」の名称で本件レストランを開設し、同ビルの表の看板及びレストラン入口に、「POWER STATION」と表示し、最近では、別紙第三目録(イ)、(ロ)記載のように「POWER STATION」と大きく書いた上に小さく「nissin」の文字等を付加して、看板及び入口に表示していたが、引受参加人は、平成四年九月頃以降本件レストランの営業を脱退被告から承継し、同じ看板、表示を使用している。

8 脱退被告が当初使用していた「POWER STATION」の表示は、原告営業表示に類似するものであり、また、別紙第三目録(イ)、(ロ)記載の表示も、その要部が「POWER STATION」(別紙第一目録記載の標章)であるから、原告営業表示に類似するものである。

9 被告らの右7の行為は、一般需要者をして、原告と被告らとの間に資本的結びつきが存在し又は業務提携が行われているなど取引上何らかの特殊な関係があるものと誤信させるものであるから、被告らの営業活動又は施設と原告の営業活動又は施設と混同を生ぜしめる行為に当たり、原告は、被告らの右行為によって、営業上の利益を害され、また害されるおそれがある。

引受参加人は、原告の営業はガソリンの販売で、被告らのそれはレストランであるから業種が異なり、顧客層も相違すると主張するが、原告の給油所への来客数は四三五万人に達し、たとえ東京都以外の給油所であってもその中には当然東京都内から車を運転してきた人も多数を占め、本件レストランの顧客となる年齢層の人も当然含まれている。

10 被告らは、故意又は過失により右不正競争行為をし、原告は、被告らの右行為によって、精神的な損害を被ったところ、その慰謝料の額は、一〇〇万円が相当である。

11 引受参加人は平成四年九月一五日脱退被告の債務を引き受けた。

12 よって、原告は、引受参加人に対し、本件商標権に基づき当事者の求めた裁判一1のとおり別紙第一目録記載の標章の使用の差止め及び同一3の包装紙、包装箱の廃棄を、不正競争防止法一条一項二号に基づき当事者の求めた裁判一2のとおり別紙第一目録記載の名称の使用の差止め及び同一3の入口表示、看板、宣伝広告物の廃棄並びに商標権侵害による損害賠償金一四七万円及び不正競争防止法違反の行為による損害金一〇〇万円の合計二四七万円とこれに対する訴状の送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する引受参加人の認否及び主張

(商標権に基づく請求について)

1 請求の原因1は認める。

2 請求の原因2のうち、脱退被告が、昭和六三年三月頃から、原告主張の日清食品東京本社ビル地階で本件レストランを経営していたこと、脱退被告が本件レストランで別紙第二目録記載の標章を付した容器に入れたホットドッグ、ハンバーガー等を客に提供していたこと、引受参加人が平成四年九月一五日以降本件レストランの営業を脱退被告から承継したことは認め、その余は争う。

3 請求の原因3は否認する。

被告らが本件レストラン内で提供する料理は、商標法上の商品には該当しない。

即ち、被告らは、本件レストランにおいて、生演奏のロック音楽を来客に楽しませながら、来客の注文に応じて料理を提供している。本件レストランの店内地下一階相当部分では、陶器製の食器に盛り付けられたフルコースの料理が提供され、店内地下二階相当部分では、主として若年の青年層向けに低価格の軽食を提供するために、別紙第二目録記載の標章を付したプラスチック製又は紙製の簡便な食器にホットドッグやピラフ等が盛り付けられて提供されている。プラスチック容器に入れられたハンバーガ等は、透けて内容物が見え、その場で喫食するように提供されており、外形上持ち帰りに適していないことは明らかである。そして、被告らは、持ち帰りのための紙袋や包装袋を用意しておらず、ハンバーガー等を渡す際に店員が顧客に持ち帰りかどうかを確認することもない。これらの料理は、本件レストラン内でのみ提供され、その場で喫食されるものであり、持ち帰りを予定しておらず、事実上持ち帰る人も皆無である。また、店内に入るためには平均三〇〇〇円もの入場料が必要で、通行人が店内で提供しているハンバーガー等の軽食を購入することは不可能である。

本件レストランは、その名のとおりロック音楽を聞きながら飲食するレストランであり、本件レストランの顧客は、ロック音楽を聞くために入場するのであって、飲食のためにのみ入場するのではない。そして、その演奏は夕刻に始められ午後九時頃に終わる。要するに、被告らは、本件レストランにおいて、顧客に対し、有償で夕食を提供しているのであって、その夕食料理である本件食料品が店外で転々流通することを意図して提供しているのではない。

4 請求の原因4及び5は争う。

5(一) 請求の原因6は否認する。

原告営業表示は、本件レストランが所在する新宿区、原告の本店所在地の渋谷区を含む東京都内において、広く認識されているものではない。

(二) 給油所は、店舗名で知られるよりは、「昭和シェル」のガソリンスタンドとか「日石」のガソリンスタンドとかいうように、ガソリンの元売業者の名前において知られており、経営する母体であるガソリン販売店の名称は、消費者の認識にないのが普通である。現に、原告の埼玉県下の店舗において、「共同石油」又は「共石」という看板は、大々的に掲げられているが、「パワーステーション」という表示は、店舗の片隅に小さく表示されているにすぎない。

埼玉県下に「パワーステーション」という名を冠したガソリンスタンドが三店ほど存在するようであるが、同県下約二〇〇〇店のうちの三店であり、このような規模で周知性を獲得できるはずがない。東京都内には約三〇〇〇店ものガソリンスタンドが存在するが、この中に、原告経営に係る「パワーステーション」という名称のガソリンスタンドは存在していない。

(三) 被告らの親会社である日清食品は、昭和六一年四月六日から平成元年九月までの間、FM東京をはじめとして日本全国二四局フルネットの放送網によって、毎週日曜日各一時間ずつ、「パワーステーション」という番組名で、ロック音楽を放送していた。この番組は、昭和六一年三月から、既に一般に雑誌等で事前に広く告知されていた。脱退被告は、ロック音楽の激しさあるいはロック音楽のパワーあふれる発信基地というイメージから連想して、英語で「発電所」を意味する「パワーステーション」という語句を採用して、右番組の名前としたのである。そして、「パワーステーション」という名称は、この番組を通じて、広く知れわたったのであって、原告の営業.活動によってもたらされたものではない。

6 請求の原因7のうち、脱退被告が昭和六三年三月頃から原告主張の日清食品東京本社ビルで本件レストランを経営していたこと、当初は脱退被告が、営業承継後は引受参加人が本件レストラン入口に別紙第三目録(イ)、(ロ)記載の表示をしていることは認め、その余は否認する。

被告らは、当初から、「NISSIN POWER STATION」、「ニッシン パワーステーション」、「POWER STATION」又は「パワーステーション」の表示で営業している。

7 請求の原因8ないし10は否認する。

原告の営業目的はガソリンの販売、被告らのそれはロックミュージックの生演奏を聞きながら料理を喫食するレストランであり、その業種がまったく異なっている。このことから、顧客層も異なり、来店目的も異なっている。「しかも、東京都内には「パワーステーション」の名を冠したガソリンスタンドはないので混同を生じる可能性はなく、原告の営業上の利益が害されるということも考えられない。

8 請求の原因11は認める。

9 請求の原因12は争う。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  商標権に基づく請求について

1  請求の原因1の事実は、当事者間に争いがない。

2  請求の原因2のうち、脱退被告が、昭和六三年三月頃から、東京都新宿区新宿六丁目二八番一号所在の日清食品東京本社ビル地階で本件レストランを経営していたこと、脱退被告が本件レストランで別紙第二目録記載の標章を付した容器に入れてホットドッグ、ハンバーガー等を客に提供していたこと、引受参加人が平成四年九月一五日以降本件レストランの営業を脱退被告から承継したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、引受参加人も本件レストランにおいて、別紙第二目録記載の標章を付した容器に入れたホットドッグ、ハンバーガー等を客に提供していることが認められる。

3  そこで、被告らが提供している本件食料品が商標法二条三項にいう「商品」に当たるとの主張について判断する。

(一)  成立に争いのない甲第三〇号証の一ないし三、乙第一号証、乙第二号証、乙第一五号証ないし乙第二四号証、乙第三〇号証の一ないし四、撮影者、撮影年月日、撮影対象に争いのない甲第二〇号証、乙第三号証、乙第四号証、乙第二九号証の一ないし四、証人春藤政司の証言により真正に成立したと認められる乙第三一号証、本件レストランで本件食料品の容器として使用しているものであることにつき争いがない検甲第一号証ないし検甲第三号証、証人春藤政司の証言及び原告代表者尋問の結果並びに前記認定の事実によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件レストランは、その店舗内が、地下一階のフロア(以下「B1フロア」という。)、地下二階のフロア(以下「B2フロア」という。)、地下一階と地下二階の間に設けられたスペシャル・ディテー・シートフロア(以下「SDSフロア」という。)の三層からなり、右三層のフロアが吹き抜けになっている構造で、B2フロアの一角にはステージが設置され、B1フロア及びB2フロアにはドリンク類や本件食料品を販売するためのカウンターがあり、SDSフロアにはコース料理を飲食するための席が三〇席設けられており、本件レストランに入場した客は、B1フロア、B2フロアは立見で、SDSフロアは席について、B2フロアのステージで生演奏されるロックを鑑賞するようになっている。

(2) 本件レストランの営業時間は、コンサートの内容により異なるが、通常午後六時頃から同九時頃までであり、被告らは、毎回異なったロックのアーチストを出演させて、コンサートを催しており、コンサートの開演時刻は、通常、本件レストランの営業開始時刻の約一時間後である。

(3) 本件レストランに入場するためには、あらかじめコンサートのチケット(出演者によって値段が違うがB1フロア、B2フロアで平均約三〇〇〇円、SDSフロアは平均約四〇〇〇円)を購入する必要があり、入口でチケットの有無がチェックされるので、チケットなしで入場することはできない。SDSフロアでコンサートを鑑賞したい客は、SDSフロアのチケットの料金の外にコース料理代金(三〇〇〇円ないし五〇〇〇円)を合わせて支払わなければならないが、その他の客は、前記チケットの料金を支払えば飲物が一本ついている。

客の中の希望者は、B1フロア、B2フロアのカウンターで、ドリンク類の追加や軽食としての本件食料品を購入することができる。被告らが用意している本件食料品の総数は、出演者から予想される客層によっても異なるが、通常、一日約五〇食分程度であり、本件食料品の主なものとその値段は、ハンバーガー三〇〇円、ホットドッグ二五〇円、サンドイッチ四〇〇円、チキン空揚げ三〇〇円、ポテトフライ二〇〇円、ピラフ三〇〇円ないし四〇〇円、グラタン三〇〇円ないし四〇〇円、オードブル類三〇〇円ないし五〇〇円等で、近隣のファーストフード店よりやや高目に設定されている。

(4) 本件レストランに入場した客が本件食料品を購入しようとする場合、B1フロア、B2フロアのカウンターで、自己の希望するものを注文し、店員から、別紙第二目録記載の標章を付した透明なプラスチック製の容器又は紙箱に入った本件食料品を受け取って代金を払う。被告らは、本件レストランにチケットを買って入場した客以外には本件食料品を売らず、客が本件食料品を持ち帰ることを予定していないので、そのための紙袋や包装袋も用意してなく、また、店員が客の注文を聞く際に、客に持ち帰りかその場で食べるかを確認することもない。客が購入した本件食料品を持ち帰ることは禁止していないが、ほとんど全ての客が本件レストラン内において本件食料品を喫食しており、店外に持ち出す者は皆無に近いのが実情である。

(5) なお、別紙第二目録記載の標章中「POWER STATION」の部分は、アメリカの有名なレコーディングスタジオの名又はイギリスのロックグループの名にちなんだ本件レストランの名称「nissin POWER STATION」の一部を表示したものである。

(二)  右認定の事実によれば、B1フロア、B2フロアで販売されている本件食料品は、コンサートのチケットを買って入場した客がその場で食べて消費するものとして調理され、販売されているのであり、一般市場で流通に供されることを目的として販売されているものとは認められない。

そうすると、被告らの販売する本件食料品は、商標法二条三項にいう「商品」に当たるとは認められない。

4  よって、その余の主張について検討するまでもなく、原告の商標権に基づく請求は理由がない。

もっとも、右3(一)認定のような本件レストランにおける本件食料品の販売は、商標法(平成三年法律六五号による改正後のもの)所定の「役務」に該当するものであり、かつ、本件商標権の指定商品と類似するものと解する余地があり、しかも別紙第二目録記載の標章が本件商標に類似すると認める余地があるから、平成三年法律六五号の施行の日から六か月を経過した日である平成四年一〇月一日以後の引受参加人による本件レストランにおける本件食料品の販売は、商標法三七条一号に該当するか否かが問題となるところである(平成三年法律六五号附則一条参照)。しかしながら、右の点は原告の主張がないのみか引受参加人が平成四年一〇月一日より前から現在まで別紙第二目録記載の標章を継続して本件レストランにおける本件食料品の販売にあたり使用していたことは前記認定のとおりであり、しかも、前記のとおり右標章はアメリカの有名なレコーディングスタジオ又はイギリスのロックグループの名にちなんだもので、原告商標とは関係なく採用されたものと認められ、この事実によればその使用は不正競争の目的によるものではないと認められるから、結局前記の問題についても検討するまでもない(平成三年法律六五号附則三条一項参照)。

二  不正競争防止法に基づく請求について

1  原告営業表示が周知性を獲得しているとの原告の主張について判断する。

前記乙第三一号証、成立に争いのない甲第一一号証の四、七、八、甲第二四号証、甲第二八号証、甲第三一号証、撮影者、撮影年月日、撮影対象につき争いのない乙第六号証、乙第八号証ないし乙第一〇号証の各一及び二、原告代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第六号証の一ないし三、甲第八号証の一ないし一七及び一九、甲第一〇号証の一ないし八、甲第一三号証の一ないし三五、甲第一四号証の一ないし七、甲第一五号証の一ないし二〇、甲第一七号証の一ないし三、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三号証、甲第五号証、甲第七号証、甲第八号証の一八、甲第一六号証の一ないし三二、乙第三三号証、原告代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  原告代表者は、父親が設立した株式会社小林商店の社長の地位を昭和五五年に引き継いで、渋谷区恵比寿所在の「共石天現寺給油所」(広尾サービス ステーション)、八王子市新町所在の「共石八王子サービスステーション」、埼玉県北足立郡伊奈町所在の「伊奈サービスステーション」の三店のガソリンスタンドで、ガソリン、軽油等の販売業を営んでいたが、昭和六〇年夏頃、ラジオ放送で、アメリカの「パワーステーション」という名称のレコーディングスタジオやイギリスのロックグループのことを聞き知ったのを契機として、「パワーステーション」を商品表示、営業表示とすることにし、同年一一月二六日、本件商標について商標登録出願をし、一方、株式会社小林商店の営業部門を別会社として独立させることとし、「株式会社パワーステーション」を商号として、昭和六一年五月一日原告を設立した。

原告は、設立と同時に、株式会社小林商店から、前記三か所のガソリンスタンドの営業を譲り受け、それらの名称を全て「パワーステーション」の語を付した「パワーステーション広尾」、「パワーステーション八王子」、「パワーステーション伊奈」に改めた。原告は、昭和六二年一〇月、埼玉県大宮市深作に「パワーステーション東大宮バイパス」店を、平成元年四月、同県越谷市大間野町に「パワーステーション越谷」店を開設したが、その後、平成三年二月に「パワーステーション広尾」店を、同年三月に「パワーステーション八王子」店をそれぞれ閉店したため、それ以降、東京都内には、原告の店舗はなく、埼玉県内に「パワーステーション伊奈」店、「パワーステーション東大宮バイパス」店、「パワーステーション越谷」店があるのみとなっている。

なお、埼玉県内には、少なくとも一〇〇〇店以上のガソリンスタンドがあり、東京都内には、埼玉県内を上回るガソリンスタンドがある。

(二)  原告は、設立当初から、各店舗でガソリン、軽油、灯油等の販売を進めるため、あらかじめ、各店舗を中心に約一〇キロメートルの範囲内の住民に、新聞折込み、ダイレクトメール又は投込みでチラシを配布して、無料の景品や抽選による賞品の進呈、商品の割引などのサービスを行って集客に努め、また、原告の店舗で給油した客にはPSカードと称するカードを渡し、以後同カードを持参して原告の店舗に給油に訪れた客には割安でガソリンを販売するようにするなど固定客の獲得に努めた。この間、二、三回奇抜な宣伝振り等で原告の店舗がテレビに紹介されたこともあった。原告が平成元年一二月までに配布したチラシの総数は約一一四万枚、ダイレクトメールの総数は約一八万通であり、平成四年九月現在において原告の店舗でガソリンの給油をしている固定客として原告が登録している人数は、一〇万名余りである。

(三)  原告は、石油元売業者共同石油の特約店で、原告の店舗では、「パワーステーション〇〇」という営業表示もされているが、それよりも「共同石油」、「共石」の文字、共同石油のマーク等が最も目立つように表示されている。

(四)  原告のガソリン等燃料油の販売量は、昭和六二年一年間の一〇九四万〇一五九リットルが平成二年一年間の一九三三万二五一四リットルと増え、平成四年現在で、全国のガソリンスタンドの一店舗当たりの平均販売量の約一〇倍の販売量で、全国でもトップクラスである。

原告が昭和六一年四月から平成三年七月までに販売したガソリン等燃料油の販売量の合計七九八二万リットル余は、車一台当たりに平均二〇リットルの給油をしているとして来店した車の台数に換算すると、延べ約三九九万台に給油したことになる。

(五)  原告は、毎年五種類位の新卒者用の求人案内集に広告を掲載する外、昭和六一年一一月から同六三年九月までの間に求人広告雑誌「日刊アルバイトニュース」に合計約六〇回の求人広告を、昭和六一年一〇月から平成三年八月までの間に求人広告雑誌「フロムエー」に合計約三五〇回の求人広告をそれぞれ掲載し、昭和六一年四月から平成三年四月までの間に、上尾以北、八王子、大宮、久喜、草加、川口、越谷周辺で求人の折込広告をし、平成二年七月から同三年七月までの間に、上尾、樋川、岩槻、蓮田、春日部、久喜周辺で求人の折込広告をした。

2  右1認定の事実によれば、原告営業表示は、現在原告の店舗のある埼玉県北足立郡伊奈町付近、大宮市深作付近、越谷市大間野町付近を中心としてその周辺地域において、自動車を利用する者等の間で、ある程度認識されているものとは認められるものの、原告の店舗数は最も多いときで東京都内及び埼玉県内に数千店あるガソリンスタンドのうちのわずか五店舗で、その中の東京都内の二店舗は「パワーステーション」の営業表示を使用したのは五年間程で平成三年には閉店していること、原告の宣伝広告活動は、主として原告の店舗の周辺でされていたこと、原告が新卒者対象の求人案内や「日刊アルバイトニュース」、「フロムエー」等に前記のとおり相当の回数求人広告を掲載していたとしても、極めて多くの求人広告が掲載された中の目立たぬ広告で、しかもこれに目を止めるのはその時点における求人広告に関心を持つ求職者に限られること、原告の店舗におけるガソリン等燃料油の販売量から、原告の店舗を利用したことのある客として推定される人数が多くても、ガソリン等燃料油は販売店の如何によって商品に差のないものであり、原告の店舗でも元売業者である共同石油の表示が最も目立つことからすれば、たまたま通りすがりに給油した客は、原告の営業表示を記憶に止めることはほとんどないものと認められ、また、原告は、原告の店舗で給油する固定客として一〇万人程度登録しているものの、どの程度の利用頻度の客を固定客と見ているのか明らかでない上、通常、自動車の運転者は、自宅や職場に近いなどといった点を考慮して給油所を選ぶことからすれば、右固定客のほとんどは前述の原告店舗の付近に居住する者であると推認されることに加えて、前記のような事情から固定客が必ずしも原告の営業表示を記憶しているものともいえないことからすれば、原告の営業表示が、被告らの営業活動の場である東京都内において、一般に広く知られているものとは認められない。

3  よって、その余の点について判断するまでもなく、不正競争防止法に基づく請求も理由がない。

三  以上のとおり、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却するこ

ととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 宍戸充 裁判官 櫻林正己)

第一目録

〈省略〉

第二目録

〈省略〉

第三目録(イ)

〈省略〉

第三目録(ロ)

〈省略〉

日本国特許庁

商標公報 第32類

商標出願公告 昭62-48293

公告 昭62(1987)7月9日

商願 昭60-117781

出願 昭60(1985)11月26日

出願人 株式会社小林商店

東京都渋谷区恵比寿2-36-13

代理人 弁理士 吉田芳春

審査官 佐久菊男

指定商品 32 食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)

〈省略〉

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